この物語はフィクションです。

First004:退廃都市

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書斎のイメージ

 夢? 夢ねぇ。
 そんなものは随分と昔に忘れちまったよ。
 いや、なに、別にあんたに文句を言いたい訳じゃないのさ。
 ただ……夢なんて古くさい言葉を赤の他人の口から聞くのは、悪寒が走るくらい飽き飽きしていると言えば聞こえが良いか? ここじゃ、そんなものには何の価値もないからさ。

 あんた、夢で飯が食えると思うかい? ここはそういう街さ。誰も彼もが憧れを持って、理想を抱いてこの街にやってくるが……そんな連中の夢を叶える場所は、この街のどこを探したって見つかりっこないのさ。そもそもが、ここには、そんなものは最初からありゃしないのさ。
 だから悪いことは言わない。夢なんて捨てて、さっさと帰りな。あんたの懐かしい故郷とやらへさ。

 腐って行く自分を実感するのは……悲しいことだよ。
 誰にも分かってもらえない苦痛よりも、何も出来ない不自由さよりも、自分が潰れて行くのを日に日に感じるのは……この世の地獄だ。
 あんた、そういう場所に来たんだよ。それが、この街さ。

 でも、昔は……この街も良かったと言う奴もいるさ。
 人情って言うのかな? そんなものが掃いて捨てるほどあったのさ。それが……いつしか根こそぎ奪われて、それからは酷いものさ。何をやっても評価されない。それどころか、今を生きるのに必至になって働かなけりゃ、生きていけない街になっちまった。
 だから、この街じゃあ、夢なんてないのさ。

 死ぬまで働く。働けなくなれば、死ぬ。それだけさ。
 それがこの街のルール。
 誰も逆らうことの出来ない、この街に足を踏み入れた者を容赦なく縛り付ける掟さ。
 法律も、行政も、福祉も……この不文律に従って、働けなくなった者を守ろうともしない。それが、今のこの街の偽らざる真の姿なのさ。

 そんな街に……あんた、何しに来たんだ? まさか、本当に夢を叶えに来たわけじゃあないだろ? そんな話を信じれやれるほど俺はお人好しじゃないし、そんな奴と関わり合っても何の得にもなりゃしないからな。

 それで、あんた、この街でどんな仕事をするつもりなんだ? いや、どんな仕事ができるんだ? それで食って行けるだけの身入りはあるのか? もっとも……聞くだけ野暮って奴か。夢なんて言葉を口に出す大馬鹿者だ。どうせ、自信だけで、他に何も持ち合わせちゃいないんだろ? だったら、今の持ち金と俺の条件で相談しな。俺の条件が呑めるなら、あんたにうちのアパートを貸そう。

 あァ、そうだ。うちのアパートは前金だ。それで、宛のない余所者のあんたに住処を貸そうってんだ。悪い話じゃないだろ? とりあえず、三ヶ月分を支払いな。それで敷金、前金はなしってことにしてやるさ。でも、これっきりだ。後はきっちり払ってもらう。
 払えなくなれば、それまでだ。
 あんたはアパートを出て行く。俺は、家賃を払ってくれる新しい住人を探す。それだけさ。その繰り返しが、今の俺なのさ。

 それから、うちのアパートはペット厳禁だ。犬も、猫も、鳥も、すべて駄目だ。人間が生きていくのにやっとの街さ。ペットなんかに金をかけるなら、しっかり働いて家賃を払えってんだ。

おことわり

 この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、機関、施設等とは一切関係ありません。肩を張らずに読める読み物としてお楽しみください。

物語

この世界のルールについて

最終更新日:2008年11月06日

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