尋ねては来たものの、まだ結論は出せていない……と言えば、少し君の気は晴れるのだろうか?
君の言う通り、貸金庫の利用者を銀行に残されていた記録書類を手がかりに探してみた。すると、どうだろう? 怪しい人物が一人、浮かび上がってきた。
記録上の名前は橘京介……行員の話では、この男が貸金庫室に入ったのは、ちょうど覆面強盗団が銀行を襲った時だったそうで、強盗団が銀行に居座っている間、この男は貸金庫室に閉じ込められていたとか……鍵穴に細工するだけの時間は十分にあったと考えられる。
そこで、この男に直接会って話を聞こうと思って、記録上の住所をあたってみると、人の住んでいる気配のない廃屋が残されていただけで、本人に会うのはもちろんのこと、その生い立ちを知ることもできなかった。
近隣で生活している人の話では、この廃屋は先の大戦以前からのものだそうで、そこで人が生活していたのは百年も昔のことだと言うのだから、怪しいなンてもンじゃァない。不審者という呼名がちょうど良いくらいさ。
だが、これでこっちの捜査は終わり。
身元も不明、足跡も不明。どんな人物なのかもわかない……これでは、調べようがないということだ。唯一の手がかりは、橘京介という名前だが、状況から察するに偽名である可能性が高いだろうしね。
それで、そっちの方は、何か進展があったのかい?
貸金庫の客の名簿? あァ、必用であれば、写しを持って来ることはできるだろうなァ……頭取の考え方も変わって来ているのでね。
でも、それで何をすると言うんだ?
盗まれた物の本来の持ち主を探すと言うのか? なるほど、それは理に叶った考え方だが……宛はあるのか? あァ? まァ、確かに……虱潰しに当たっても数は知れていると言えなくもないな。
分かった。頭取の方に掛け合ってみよう。
上手く事を運べば、今回の鍵穴の破壊による預かりものについての謝罪のため、各顧客の家を回らなければならないということになるかもしれないし……そうなれば、同席を頼めるならば、こちらが調べるよりも遥かに簡単に相手を知ることができるだろうからな。
でも、それが……橘京介を追いつめることにつながるのか?
何? その相手が京介を知っているかもしれないって? それは、凄い推論だが……例によって、根拠はないのだろう?
君って奴は、時に突拍子もないことを言う奴だとは思っていたが……それが本当ならば、被害者と加害者は面識があるということだぞ。いや、この場合は、その可能性に賭けていると言ったところなのかもしれないが……まァ、それほど価値のあるものならば、それもないとは言えないというところか。
だが、他に手だてがないならば、君の言う通りにしてみよう。
であるならば、今日はこれで引き上げよう。良い夢を。そして、良い結果に辿り着けることを願っていてくれ。
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、機関、施設等とは一切関係ありません。肩を張らずに読める読み物としてお楽しみください。
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