今日は怖いほどの成果があったよ。
君の話の通り、まずは貴族筋からあたってみたら、3人の人物の名前が上がった。
それから住所を調べてみたら、1人だけ他県の住所で届け出されていた。どうしてそんな遠いところから預けに来ているのか不思議に思えたよ。そこで利用頻度を見てみると、事件が起こる前日まで毎日必ず利用しているというから驚きだ。
それほど頻繁に貸金庫を利用しているというのは、よほど大事な物を預けているのか……あるいは、頻繁に中身を入れ替えなければならないかのいずれかだと思った。どちらにしても、特殊な事情の持ち主であることに代わりはないだろうと思い、頭取に確認を取った上で、現状の報告と合わせて、頭取と一緒に本人に会いに行って来た。
そうしたら、なんと、その席で預けていた品物の話になってな。まァ、預かった物を返す事が出来ないという謝罪の面会だったわけだから、自然と言えばそれまでなのかもしれないが……とにかく、預けられていた品物が、遠い異国の地で書かれた日記だったということを明かしてくれた。
問題はこの先さ。その日記は不幸を呼ぶ日記で、貸金庫ごと壊してしまうなんてとんでもないと言うンだ。そんなことをすれば、呪われるとね。
だが、他に方法がないので、頭取はそれを承諾できない場合には、それに見合う金を支払うと言い出した。すると、この貴族の老紳士は、金の問題ではないと言う。二人の話し合いは折り合いのつくものではなかったよ。
しばらくそんな無意味な話し合いが続いて、最後になって、ようやく頭取が席を外したところで、老紳士に橘京介の名を尋ねたところ、大当たりだったというわけさ。
橘京介と名乗る男は、以前、この老紳士の元を訪ねて、その日記を譲って欲しいと言って来たらしい。もちろん老紳士は、断ったそうだが……それからも頻繁に屋敷を訪ねられたために、銀行に預ける決心をしたのだそうだ。
しかし、そうなると、橘京介と言う男は、よほどの野心家の様だ。一度、目を付けたら逃がさないというのか……熱心が過ぎて、熱狂の域に来ている男なのかもしれないな。だが、これで貸金庫の鍵穴に細工をしたであろう犯人とは、件の橘京介と見て間違いないだろう。
何? 橘京介の居所?
あァ、もちろん仕入れて来ているさ。
ご丁寧にも、その日記を譲る決心がついたら連絡して欲しいとのことで、その老紳士の手元に連絡先の書き置きを残していったらしい。これがその写しさ。さっそく、行ってみようと思ったが、帰って来てみればこの時間だ。橘京介の居所を訪ねるのは明日にしたいと思っている。
それに、出来れば君も一緒に行ってはどうだろう? 俺としても、一人で行くには度胸が必用だ。もしも、もしも俺の身に何かあった時には、警察に連絡をしてくれる相方がいれくれれば心強い。
え? このことを頭取が知っているかって?
いや、頭取が席を外した折での事だ。俺からは頭取に話してはいないから、知らないだろう。あの老紳士が話せば別だが、随分と頭取の対応と貶していたから、その可能性は薄いだろうな。
何故、そんなことを気にするンだ?
要らぬ心配だ。
頭取は確かに若いが、立派な人格者だ。
少なくとも、俺には後ろめたいことを望んでする様な人には見えない。
それを言うのであれば、君の方がよほど腹黒い様に見える。いや、君を貶すつもりで言ったンではないよ。気にさわったなら謝ろう。
では、明日は午前中のうちに俺の事務所に来てくれ。合流してから、奴の居所に挑むとしよう。
それじゃァ、今日はゆっくりと良く休んで、明日に備えることにしよう。
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、機関、施設等とは一切関係ありません。肩を張らずに読める読み物としてお楽しみください。
2004 - 2009 © almaarea.com All Rights Reserved.